ストトン ストトンと通はせて 今さら厭とは胴慾な
厭なら厭だと最初から 言へばストトンで 通やせぬ ストトン ストトン
今日は會社の月給日 お金もしこたまもらつたし
藝者あげよか 酒のもか 嫁に相談してどやされた ストトン ストトン
ストトン ストトンと働いて 一月稼いだ金持つて
ちよいと一晚通つたら キツスひとつで消えちやつた ストトン ストトン
向かう通るハイカラ美人 橫目でチヨクチヨク僕を見る
こいつてつきりお出でだと よく見りやなんだい 藪にらみ ストトン ストトン
ストトン ストトンと家を建て 朝から晚まで大工さん
自分で建てたその家に 敷金つまねば入られぬ ストトン ストトン
ストトンストトンと働いて 親父の日給が八十五錢
物價高いのにやりきれぬ 嫁每日質屋通ひ ストトン ストトン
ストトン ストトンとだまされて 白粉代を貢ぐ紳士さん
細君が半襟ほしがれば ぐいと睨んで空を向く ストトン ストトン
ストトン ストトンと降る雨に 十八年の天津風
本望遂げし曾我兄弟 譽れゆかしき蝶千鳥 ストトン ストトン
ストトン ストトンと降る雪の 瑤泉院にいとまごひ
心を鬼に內藏助 淚こらへた 南部坂 ストトン ストトン
ストトンストトンと伊賀上野 鍵屋の辻に待ち受ける
弟數馬に助勢して 伊賀の水月又右衞門 ストトン ストトン
ストトンストトンと戸をたたく 主さん來たかと出てみれば
そはふく風にだまされて 月にはずかしわがすがた ストトン ストトン
あなたみたいないい男 私みたいなお多福が
提燈釣り鐘釣り合はぬ 見捨てられても無理はない ストトン ストトン
好いて好かれて相惚れて 一夜も添はずに死んだなら
わたしや菜種の花となる あなた蝶々で飛んでおいで ストトン ストトン
二十三連隊の營門で ハンカチくはへて目に淚
どうぞスウちやんに逢はせてよ 私のスウちやん十二中隊 ストトン ストトン
ガチヤグツ ガチヤグツ 靴の音 あれは兵隊さんの演習歸り
大尉中尉に少尉殿 特務曹長 曹長 軍曹 伍長 上等兵 新兵さん 新兵さん
武夫がボオトにうつる時 浪さん赤いハンケチを
打ち振りながらねえあなた これに未練は無いかひな ストトン ストトン
親子三人牀の中 夜中に坊やが目をさまし
母ちやん今のは何の音 あれは地震よ ねんねしな ストトン ストトン
朝のご飯を食べるとき 父さんの顏見りやおかしいな
母さんの顏みりやおかしいな 昨夜の地震がまんま食べる ストトン ストトン
あなた上から下がり藤 あたしや下から百合の花
そこで電氣を芥子の花 こんなよいこと梨の花 ストトン ストトン