目もはろゞゝと桃色の 春の雲行く大空を
仰ぎて立てる若人に 三春淸き花のかげ
あゝ この若く圓かなる 丘にむすべる夢と夢
永遠の命にとけてゆく 行方は知らず霞むかな
ふるさと遠く日は落ちて 四方の山脈(やまなみ)紫に
夕月登るみづうみの 舟に遊子の思ひあり
夏まだ淺き簸の上(ひのかみ)の 狹霧はるれば立ちませる
御子の劍の光いま 我等の胸に宿るなり
鹿なく夕べ月山の いたゞき草は長うして
かの英雄の夢の蹟 弦月あはく照すかな
それ鴻はつばさ張り 豁然はれし日本海
渺茫紫紺波の上 靑雲分けて旅ゆかむ
千里こほれるシベリアの 黎明赤き空の色
祕めし古城にたゝずめば 蒙古の秋の陽は暑し
ガンジス河に咲く花の もゆる緋になく丘の子に
濁流ひろき大河ゆく 支那七月のつばくらめ
あゝ靑春ぞ いのちなる 血潮高鳴る男の子らの
若く雄々しきまなざしは 焰と燃えて果てしらず
さはれ惠みの丘の上の 夢安らけき思ひ出の
花咲く園にかがやける 大日輪のおごりかな
大正十年