何處まで續く泥濘ぞ 三日二夜を食もなく 雨降りしぶく鐵兜
嘶く聲も絕へ果てゝ たふれし馬の鬣を 形見と今は別れ來ぬ
蹄の蹟に亂れ咲く 秋草の花 雫して 蟲が音ほそき日暮れ空
既に煙草は無くなりぬ 賴むマツチも濡れ果てぬ 飢ゑ迫る夜の寒さかな
さもあらばあれ日の本の 吾はつはものかねてより 草むすかばね悔ゆるなし
あゝ東の空遠く 雨雲搖りてとゞろくは 吾が友軍の飛行機ぞ
通信筒よ乾麵麭よ 聲もつまりて仰ぐ眼に 溢るゝものは淚のみ
今日山峽の朝ぼらけ ほそくかすけく立つ煙 賊馬は草を食むが見ゆ
露冷えまさる草原に 朝立つ鳥も慌し 賊が油斷ぞひしと寄れ
面かゞかしつはものが 賊殲滅の一念に 焰と燃えて迫る見よ
山こだまする砲の音 忽ちひゞく鬨の聲 野の邊の草を紅に染む
賊馬もろともたふれ伏し 焰はあがる山の家 さし照れる日のうらゝけさ
仰ぐ御稜威の旗の下 幾山越えて今日の日に あふ喜びを語り草
敵にはあれど遺骸に 花を手向けて懇ろに 興安嶺よいざさらば
亞細亞に國す吾が日本 王師ひとたびゆくところ 滿蒙の闇 晴れ渡る