人間味があるなどと気安く言うが人の味は皆それぞれで
食い物の味よりもはるかに変化に富んでいる
ぼくらはその旨さにあるいは不味さにしばしば絶句する
その時々の気分も命がけの思想も
びっくりするような行動も味のうちで
それをまるごと呑み下すあるいはくちゃくちゃ咀嚼するのは
三度の飯と同じくぼくらの生存本能に根ざしている
とは言うものの目の前にいるこの人をどうしたらいいのか
どこも見ていない鳥のような目の奥にひそむ自我は
ぶよぶよの巨大なゴムの塊みたいで
言葉では突き刺すことも撫でさすることも出来ないから
ぼくの自我も酸っぱい反吐となってこみ上げるだけ
音楽も詩も尻をからげてどこかへ逃げ出してしまう
有史以来何ひとつ変わっていない人の心のすごい重力
それは多分宇宙の法則とはあい容れぬもの
だからぼくらにはこんなにも美しく見えるのだ
窓の外の雑木の初夏の緑が