
北海道帝國大學豫科 明治四五年度寮歌
都ぞ彌生の雲紫に 花の香漂ふ宴遊の筵
盡きせぬ奢りに濃き紅や その春暮れては移らふ色の
夢こそ一時青き繁みに 燃えなん我が胸想ひを載せて
星影冴かに光れる北を 人の世の 清き國ぞとあこがれぬ
豐かに稔れる石狩の野に 雁遥々沈みてゆけば
羊群声なく牧舎に帰り 手稲の嶺黄昏こめぬ
雄々しく聳ゆる楡の梢 打振る野分に破壊の葉音の
さめやく甍に久遠の光 おごそかに 北極星を仰ぐかな
寒月懸れる針葉樹林 橇の音凍りて物皆寒く
野もせに乱るゝ清白の雪 沈黙の暁霏々として舞ふ
あゝその朔風飄飄として 荒ぶる吹雪の逆まくを見よ
あゝその蒼空梢聯ねて 樹氷咲く 壮麗の地をここに見よ
牧場の若草陽炎燃えて 森には桂の新緑萠し
雲ゆき雲雀に延齢草の 眞白の花影さゆらぎて立つ
今こそ溢れぬ清和の陽光 小河の潯をさまよひゆけば
うつくしからずや咲く水芭蕉 春の日の この北の國の幸多し
朝雲流れて金色に照り 平原果てなき東の際
聯なる山脈玲瓏として 今しも輝く紫紺の雪に
自然の藝術を懐みつつ 髙鳴る血潮のほとばしりもて
貴とき野心の訓へを培ひ 榮え行く我等が寮を誇らずや