龍寶山萬昌院功運寺 水野重郎左衛門墓
cf. 鼠渓著「
寐ものがたり」
・・・水野十郎左衛門悪行募り、阿州へ御預ケになり、切腹の砌申けるは、不思議之御縁ニて永〃御介抱ニ預り、御礼謝難申尽、唯此上之御願ニは、正宗か貞宗の短刀にて切腹仕度候間、御借被下るゝ様ニと、又無餘義も被頼ける阿州の役人承り、早速吟味せし処、正宗はなし、貞宗はあり。則持出し、折角の御頼ニ候得ども、正宗は国許に有之候て間ニ合かね候、御不足には有御坐べけれど、貞宗の短刀御借可申也とて差出す。十郎左衛門大きに悦、辱仕合いざ拝見仕らんとて、手に取て抜放し、打返し/\とつくとながめ、とてもの事に切味も試みたしとて、片ひざまくり上げ、膝の上より股の付ねまで、ひと引にひきければ、鮮血流れて混々たり(御規定を守りて腹へはつきたてず)。色も変ぜず自若として、扨切味と申、残所なき御道具也とて血を拭ひ鞘に納め、三宝の扇子をとり片脇に置、其かわりに右の短刀をのせて頂きければ、介錯人相心得、振上る刀とともに首は前にぞ落にける。阿州侯、その健気なるに感じ、御願ニて微録なれども跡はたちける・・・