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...この空地には夏から秋にかけて、ついこの間まで、初めは曲馬、次には猿芝居、その次には幽靈の見世物小屋が、毎夜さわがしく蓄音機を鳴し立ててゐたのであるが、いつの間にか、もとのやうになつて、あたりの薄暗い燈影が水溜の面に反映してゐるばかりである。わたくしは兔に角もう一度お雪をたづねて、旅行をするからとか何とか言つて別れよう。其の方が鼬の道を切つたやうな事をするよりは、どうせ行かないものなら、お雪の方でも後々の心持がわるくないであらう。出來ることなら、眞の事情を打明けてしまひたい。わたくしは散歩したいにも其處がない。尋ねたいと思ふ人は皆先に死んでしまつた。風流絃歌の巷も今では音樂家と舞踊家との名を爭ふ處で、年寄が茶を啜つてむかしを語る處ではない。わたくしは圖らずも此のラビラントの一隅に於いて浮世半日の閑を偸む事を知つた。そのつもりで邪魔でもあらうけれど折々遊びに來る時は快く上げてくれと、晩蒔ながら、わかるやうに説明したい……。わたくしは再び路地へ入つてお雪の家の窓に立寄つた。 「さア、お上んなさい。」とお雪は來る筈の人が來たと云ふ心持を、其樣子と調子とに現したが、いつものやうに下の茶の間には通さず、先に立つて梯子を上るので、わたくしも樣子を察して、 「親方が居るのか。」 「ええ。おかみさんも一緒……。」 「新奇のが來たね。」 「御飯焚のばアやも來たわ。」 「さうか。急に賑かになつたんだな。」 「暫く獨りでゐたら、大勢だと全くうるさいわね。」急に思出したらしく、「この間はありがたう。」 「好いのがあつたか。」 「ええ。明日あたり出來てくる筈よ。伊達締も一本買つたわ。これはもうこんなだもの。後で下へ行つて持つてくるわ。」 お雪は下へ降りて茶を運んで來た。姑く窓に腰をかけて何ともつかぬ話をしてゐたが、主人夫婦は歸りさうな樣子もない。その中梯子の降口につけた呼鈴が鳴る。馴染の客が來た知らせである。 家の樣子が今までお雪一人の時とは全くちがつて、長くは居られぬやうになり、お雪の方でもまた主人の手前を氣兼してゐるらしいので、わたくしは言はうと思つた事もそのまま、半時間とはたたぬ中戸口を出た。 四五日過ると季節は彼岸に入つた。空模樣は俄かに變つて、南風に追はれる暗雲の低く空を行き過る時、大粒の雨は礫を打つやうに降りそそいでは忽ち歇む。夜を徹して小息みもなく降りつづくこともあつた。わたくしが庭の葉雞頭は根もとから倒れた。萩の花は葉と共に振り落され、既に實を結んだ秋海堂の紅い莖は大きな葉を剥がれて、痛ましく色が褪せてしまつた。濡れた木の葉と枯枝とに狼藉としてゐる庭のさまを生き殘つた法師蝉と蟋蟀とが雨の霽れま霽れまに歎き弔うばかり。わたくしは年々秋風秋雨に襲はれた後の庭を見るたびたび紅樓夢の中にある秋窓風雨夕のゆふべと題された一篇の古詩を思起す。 秋花ハ慘淡トシテ秋草ハ黄ナリ。 耿耿タル秋燈秋夜ハ長シ。 已ニ賞ス秋窓ニ秋ノ不[レ]盡キザルヲ。 那イカンゾ堪ンヤ風雨ノ助クルヲ[二]凄涼ヲ[一]。 助クルノ[レ]秋ヲ風雨ハ來ルコト何ゾ速ナルヤ。 驚破ス秋窓秋夢ノ緑ナルヲ。 ……………………… そして、わたくしは毎年同じやうに、とても出來ぬとは知りながら、何とかうまく飜譯して見たいと思ひ煩ふのである。 風雨の中に彼岸は過ぎ、天氣がからりと晴れると、九月の月も殘り少く、やがて其年の十五夜になつた。
by sato_ignis
| 2022-02-13 07:30
| 読書
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