一
乞食袋を重さうに 喇叭の聲で集まつて
教室さしてゾロゾロと 行けば數學よ
二
シンコステータの三角が やつと濟んだと思つたら
坐標、原點、抛物線 これが解析か
三
理學博士ぢやあるまいし 加速度なんか知るものか
頭が四角や三角に なるは重學よ
四
釘かミミズか知らないが 頓珍漢の語學など
やつても役には立たないよ 俺はナポレオン
五
孔子や孟子が酒飮んで 一杯機嫌でほら吹いた
出鱈目なんか知るものか いやな漢文ぢや
六
昔もむかし大昔 兼好法師や貫之が
寢言を書いた國文は 溶けた水飴か
七
紙が踊つて球がとぶ 煙が出たり火が消える
俺らが見たらこの理化も 矢張り切支丹
八
七千年の老いぼれが 本当らしく述べ立てる
誰が眞面目に聞くものか ひどいほら吹きめ
九
石が黒いも青いのも さつぱり俺には無關係
この世の中に山河の あるは當たりまへ
十
下手な理屈をこねまはす 三段論法歸納法
ギリシャの昔の馬鹿者が 遺したやくざもの
十一
大工や左官のまねをする 圖學なんか要るものか
呑氣な奴の仕事には 至極適當ぢや
十二
山の形や水の色 冩眞の便利も知らないで
珍しさうに紙に畫く 畫學は間拔け者
十三
忠孝仁義と今更に 勿體らしく言ふけれど
催眠術に違ひない 直ぐに眠くなる
十四
世が逆さまになつたならば 時文が役に立つだらう
この眞ツ直ぐの世の中にや まるで不必要