生誕ここに一年(ひととせ)と 春は再び廻り來ぬ
草木緑に萌え出でて 雲雀は高く歌ふなり
若き誇りの二百人 光を浴びて丘に立つ
搖れたち昇る陽炎や ふりさけ見れば紫の
一抹佐渡が島霞 薔薇色雲よ眞白帆よ
希望憧憬(のぞみあこがれ)わが象徴(すがた) 乘せて漂ふ青海波
ああ青春の喜びは 胸に溢れて熱き血の
漲る吾れが腕かな さはれ微かにひそかにも
かすりて過ぐる悒愁の 黒き眸に涙あり
そは歡樂に悲哀(かなしみ)を ふと思ひ出し若人が
やがて來るべき烈日の 激しき戰知ればにか
運命(さだめ)の前の凋落の 一葉の影思へばか
無心の砂は崩れ來て 鳶は舞ひ居り悠久を
この麗日の丘の上 頌春の歌あはせつゝ
贅なき宴催せば 散りこそかかれ花の雪
大正九年寮歌