酒がのみたい夜は
酒だけでない
未来へも罪障へも
口をつけたいのだ
日のあけくれへ
うずくまる腰や
夕ぐれとともにしずむ肩
酒がのみたいやつを
しっかりと砲座に据え
行動をその片側へ
たきぎのように一挙に積みあげる
夜がこないと
いうことの意味だ
酒がのみたい夜はそれだけでも
時刻は巨きな
枡のようだ
血の出るほど打たれた頬が
そこでも ここでも
まだほてっているのに
林立するうなじばかりが
まっさおな夜明けを
まちのぞむのだ
酒がのみたい夜は
青銅の指がたまねぎを剥き
着物のように着る夜も
ぬぐ夜も
工兵のようにふしあわせに
真夜中の大地を堀りかえして
夜明けは だれの
ぶどうのひとふさだ
<サンチョ・パンサの帰郷>
cf.
「さびしいと いま」石原吉郎 http://ignis.exblog.jp/8099014/[ 2008-02 -26 22:30 ]
「事実」石原吉郎 http://ignis.exblog.jp/8099017/[ 2008-02 -26 22:31 ]