湯畑から続く坂の途中,とある店が道ばたでまんじゅうと茶を配っている。あきない熱心はけっこうだが,往来のたびに差し出されいちいちそれを断るのもわずらわしく,私はあまり好きではない。せんに父を招待したおり,そのあたりを散歩した,彼はうれしそうに茶とまんじゅうを受け取った,湯のみを返してくれという売り子をしりめにゆうゆう茶菓を楽んでとうとうまち外れまで歩いてしまった。親切な店だねえけんちゃん,と本人はご満悦であったが,ついてきた店の方はさぞご迷惑だったろう。にこやかに坂をのぼってくる我が父を眺めながら,なるほど面倒くさがるくらいならここまでやればいいのかと,おどろきともあきれともつかぬ妙な感動をおぼえたのを,雪ちらつく散歩をしながらふと思い出した。