１９９５年の日記 1月17日～

１／１７
５時頃、兵庫中心に地震があった、テレビで高速がひっくり返った姿を映していて目をむく。死者１０数名確認、というところで駿台に行く...１８時頃までプロントでコーヒーをのむ。帰りの電車の中でふととなりの新聞をみると死者３００人となっている。おどろいて不安を感じながら中野駅に出ると、共産党が募金をしていて、死者は１０００人だという。ますますおどろいて家に帰ると、新聞、テレビで火事を中継している...寝る頃には、死者は１５００人を越す。東京なら０がひとつ多くなるだろう。この死者の数に自分がはいるであろうことを考え、うつうつとする。
１／１８
おきて新聞をひろげると２０００の白ヌキ、目を覚ます。死者の名前が数面を埋める。恐怖と憂鬱のいりまじった、不思議な気持ちになってメシの味がわからなかった。午後だけ大岡先生の授業に出席する。ヨシオカ氏にあったので、ひどいことになったねえ、と話す。彼は親戚が６家族神戸に住んでいるのだといって、心配そうに顔をしかめていた。そんなこんなで中野につく、自転車をよくみるとギアが完全にこわれている。金属部分が割れているのだ。仕方ない、とスイスアーミーではずしてしまう。ウェンズデイにゆこう、と歩いていると黒い服を着た女の人と目があう。あっとお互い指をさす。日本医科大の看護婦さんである。笑って、元気になりましたと礼をいった。
１／１９
昨日、河野が今日の１・２時間目はスドウの地域史だ、来い、というのでそうすることにする...今日は北欧、南伊史であった。いい復習になり、河野に感謝する。木曜１限は初めて出たな、などと考えながら歩いているとヨシオカ氏にあったので、メシをくおうと５号館にゆくと、ランチがステーキでおどろいた。カタイがなかなかうまかった。...ICIで３日分のアルファ米を買う。死者３０００人を超え、まだまだ増えている。
１／２０
１２：３０に千駄ヶ谷河合で木村とまちわあせる。借りていたICUの赤本を返すのである。...校内をぶらぶらしていると山田氏にあった。センターの結果など報告しあっていると木村が教室からでてきたので、外に出てラーメンをくい、色々と話をしながら歩き、新宿で別れる。その足でスンダイにゆき、センターリサーチの結果をうけとり、むずかしい顔をしながら帰る。...死者４０００人超える。
１／２１
...熱８度５分。家族中風邪気味、結局ピンピンしているのはおじいちゃん１人である。...神戸復活のめどたたず、死者４８００人、負傷者３万以上、家屋倒壊５万５０００。東西が神戸で断たれている。世界各国の救援物資と、各県の物資が同時に運び込まれているという。なぜ同時か。
１／２２
昨夜から冷たい雨。神戸には無情の雨であろう。昼、田中から電話あり、オギクボでラーメンをくわぬか、というのでそうすることにする。ついでに漢字の参考書を返してもらおう。雨が音をたてはじめた。丸長でつけめんをくう。初めて食べたときは目を白黒させていたが、ゆくと家族に土産をかうようにまでなった。フレンドにより登山用品をながめ、山のオモシロサを語りつつ、大田黒公園で３０分ほど話していた。のんびり歩いて駅まで帰り、別れる。今日はもうおわり、と、田中とのデートで１日をつぶしてしまうのであった。
１／２３
...今日は春のような陽気で、手袋なしで充分である、何となく春のかおりもする。あまり気持ちがよいのでマドをあけていたが、あたたかい冬の恐怖も感じる。本日、死者５０００人を超える。だんだんと新聞も当日をふりかえり出している。瓦礫から救い出されたある人が、「ズボンを替えたい」とうめいたそうだ。泣きたくなる。それでも、地震から人々は立ち上がりはじめた。ガレキの中から生をつかみはじめた。そういった人も大勢いるというのに。
１／２４
本日大安、願書を出す。おなじ目的であろう人間が多く、小さな郵便局がごったがえしていた。...１２：３０から壮行会なるものがあった。秋本先生いわく、神戸校は再開のめどもたたないという。死んだ人間の分もやってこいという。死んだ人間の分まで生きてくれという。それだけでいいという。...角田、酒井、吉岡、田中と５人でプロントでコーヒーをのみ、日本橋の丸善まで歩き、メガネをもらったあと、皇居のまわりを歩いて、結局市ヶ谷に出た。もう夕ぐれであったが、モスでコーヒーをのみ、なおも公園で話して、２０時頃帰る。
１／２８
...この１年、生まれて初めて努力したように、絶望と希望をもって、めまぐるしく感情が動いた。連中とは、なぐさめあうことこそなかったが、けなしあい、意地をはりあい、そしてほめあってやってきたように思う。連中がいたからこそ、わたしは、わからぬことを、時間をかけて考えられるようになったと思う。先日、河野と二人電車にゆられながら、腹の底からわきあがるように、この気持ちがあふれてきた。口にはしなかったけれど、目の前のコーノに、それらをすべて集めて、感謝したのである。もう１月がおわるねえ、とそれ以上言わぬが、お互いに気合いをかけあい、そして別れた。日本人がたくさん死んだ。死んだ同い年たちの分までやってみよう。



◇阪神・淡路大震災

発生、１９９５年１月１７日午前５時４６分５２秒。震源、北緯３４度３６分・東経１３５度０２分・地下1６km。地震規模、マグニチュード７．３。淡路、神戸、芦屋、西宮などで、最大震度７。
死者、６４３３人。約９割は家屋倒壊による圧死・窒息死。負傷者、４３７９２人。家屋被害、２４８４１２棟（４８９２９世帯）。避難者数、最大３１６６７８人。断水、９５万４０００戸。ガス供給停止、８６万戸。停電、２６０万戸。被害総額、９．６兆円。