“シーゲル”高橋繁隆先生は,毎回の授業で洋楽を流し,
解説と問題を付したプリントを配ってくれた。祖父の懐メロと
兄のテクノ,姉のピアノに囲まれていた私に,それらは鮮烈
だった。一曲一枚ごと,新しい世界に踏み込んでゆく自分が
快かった。英語は勉強ではなく,手に入れたい何かになった。
思えば,先生がたの授業に,豊多摩そのものに,知的で心にくい
仕掛けと,温かいまなざしがあふれていた。
赤点ラインの常連だった私は今,予備校で英語を教えている。
拙著を巷で見かけると,何とも不思議な心持ちになる。教育と,
苦手ながらも英語を我が道に選んだのは,目の前にいる子らに,
あの贅沢な時間を伝えたいからだ。私は語り,生徒を見つめる。
不器用でもよい。遅れてもよい。ある何かに憧れ,それを大胆に
求め続けるだけでよい。彼我のおおらかさに育まれ,青春の個性や
能力は,驚くほどたくましく伸びてゆく。
豊多摩の血は,私を伝い,彼らにも流れているのだ。
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本日より都立中等教育学校に出講。豊多摩の恩に報いるとき。
ここにもかしこにも,命を賭せん。
cf. 2010-04-15 壮年に向けて http://ignis.exblog.jp/13153544/
cf. 2004-10-18「あなたに」谷川俊太郎 http://ignis.exblog.jp/599004/
cf. 2004-11-27 楽園とはいわない。http://ignis.exblog.jp/1181331/