平成五年度「君の明日に ー都立高等学校案内ー」、東京都教育委員会発行。
都立豊多摩高等学校の案内(P176〜177)に、鮮烈な一文が添えある。
私はこの先輩を知らないが、会えばきっと、うまい酒を酌み交わすだろうと
思うのだ。
「豊多摩の頃」
大学に行って、沢山の人に出会った。一様に頭がよく人もいい彼らは、
しかし高校の頃をいつくしむことはあまりなかった。
高校時代が強い色彩を放つことなく、するりとかわされてしまっている。
豊多摩は違う。あそこには高校生活があった。器用に生きられず、
だけど自分だって何かできるはずだというあせりと戦っていた。
みんな自分が何者かを見つけたくて必死だった。
その思いをそれぞれ勉強やクラブや幾つもの行事にぶつけていた。
自分のことしか見えなくて傲慢になっても、本気だったから
嘘だけはなかった。先生も野暮なことをいう人は一人もいなかった。
楽園とはいわない。楽園なんかよりずっとハードで、
そして本当の意味での可能性に満ちた場所であった。
(1990年3月卒業生)