一個のりんご高坏にのせて
死んでいくのをみていた
そんなにもあかあかとかがやいて
そんなにもみずみずしい中味
しっかりとつつんで自足している
りんごのとびきりの静寂がねたましくて
その死にざまさいごまでみとどけたかった
三月十日(みつきとおか)をかけて
りんごは黒塗りの高坏のうえでて
ゆっくりと死んでいった
すこしずつすこしずついろあせて
すこしずつすこしずつとけていく内部によりそって
むすうのやさしいしわきざみながら
死んでいくのをみていたみつづけていた
そして今朝
ひとまわりちいさくなったりんごの頂天から
ふいにあふれでた黄金色にすきとおる蜜のしずく
おもわずさしのべてぬぐったちなまぐさいゆびさきに
それはひかりよりまぶしくかがやいて
ねたみはついに羞恥となって心底ふかくしずんでいった