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遼陽城頭夜は闌けて 有明月の影すごく 霧立ちこむる高梁の 中なる塹壕聲絕えて 目醒めがちなる敵兵の 膽驚かす秋の風 我が精銳の三軍を 邀擊せんと健氣にも 思ひ定めて敵將が 集めし兵は二十萬 防禦至らぬ隅もなく 決戰すとぞ聞えたる 時は八月末つ方 わが籌略は定まりて 總攻擊の命下り 三軍の意氣天を衝く 敗殘の將いかでかは 正義に敵する勇あらん 「敵の陣地の中堅ぞ まづ首山堡を乘つ取れ」と 三十日の夜深く 前進命令 忽ちに 下る三十四連隊 橘大隊一線に 漲る水を千仭の 谷に決する勢か 巖を碎く狂瀾の 躍るに似たる大隊は 彩雲たなびく明の空 敵壘近く攻め寄せぬ 斯くと覺りし敵壘の 射注ぐ彈の烈しくて 先鋒數多斃るれば 隊長怒髮天を衝き 「豫備隊續け」と太刀を振り 獅子奮迅と馳せ登る 劍戟 摩して鐵火散り 敵の一線まづ敗る 隊長咆吼躍進し 卒先塹壕飛び越えて 閃電 敵に切り込めば 續く決死の數百名 敵頑强に防ぎしも 遂に堡壘を奪ひとり 萬歲聲裡日の御旗 朝日に高くひるがへし 刄を拭ふ暇もなく 彼れ逆襲の鬨の聲 十字の砲火雨のごと よるべき地物更になき この山上に篠つけば 一瞬變轉ああ悲慘 伏屍累々山を被ゐ 鮮血漾々壕に滿つ 折しも咽を打ちぬかれ 倒れし少尉川村を 隊長躬ら提げて 壕の小蔭に包帶し 再び向ふ修羅の道 ああ神なるか鬼なるか 名刀關の兼光が 鍔を碎きて彈丸は 腕をけづり さらにまた つづいて打ちこむ四つの彈 血煙さつと上れども 隊長さらに驚かず 嚴然として立ちどまり なほ我が兵を勵まして 「雌雄を決する時なるぞ この地を敵に奪はるな とくうち拂へこの敵」と 天にも響く下知の聲 衆をたのめる敵兵も 雄たけび狂ふ我が兵に つきいりかねて色動き 浮足立てし一刹那 爆然敵の砲彈は 裂けぬ頭上に雷のごと 邊りの兵にあびせつつ 彈はあられとたばしれば 打ち倒されし隊長は 「無禮ぞ奴」と力こめ 立たんとすれど口惜しや 腰は破片に碎かれぬ 「隊長傷は淺からず 暫しここに」と軍曹の 壕に運びてゐたわるを 「否みよ內田淺きぞ」と 戎衣をぬげば紅の 血潮淋漓迸る 中佐はさらに驚かで 「隊長われはここにあり 受けたる傷は深からず 日本男子の名を思ひ 命の限り防げよ」と 部下を勵ます聲高し 寄せては返しまた寄する 敵の新手を幾度か 打ち返ししもいかにせん 味方の殘兵少きに 中佐はさらに命ずらく 「軍曹銃をとつて立て」 軍曹やがて立ちもどり 「辛くも敵は拂へども 防ぎ守らん兵なくて この地を占めん事難し 後援きたるそれまで」と 中佐を負ひて下りけり 屍ふみ分け壕をとび 刀を杖に岩をこへ やうやく下る折も折 虛空を摩して一彈は またも中佐の背をぬきて 內田の胸を破りけり 下 嗚呼々々悲慘 慘の極 父子相抱く如くにて ともに倒れし將と士が 山川震う勝鬨に 息吹き返し見返れば 山上すでに敵の有 飛び來る彈の繁ければ 軍曹ふたたび起き上り 無念の淚拂ひつつ 中佐を扶けて山の影 たどり出でたる松林 僅かに殘る我が味方 阿修羅の如き軍神の 風發叱咤今絕えて 血に染む眼打ち開き 日出ずる國の雲千里 千代田の宮を伏し拜み 中佐畏み奏すらく 「周太が嘗て奉仕せし 儲の君の畏くも 生れ給ひし よき此の日 逆襲うけて遺憾にも 將卒數多失ひし 罪はいかでか逃るべき さはさりながら武士の とり佩く太刀は思ふまま 敵の血汐に染めてけり 臣が武運はめでたくて 只今ここに戰死す」と 言々悲痛 聲凜凜 中佐はさらにかへりみて 「我が戰況はいまいかに 聯隊長は無事なるか」 「首山堡 既に手に入りて 關谷大佐は討死」と 聞くも語るも血の淚 わが凱歌の聲かすか 四邊に銃の音絕えて 夕陽遠く山に落ち 天籟闃寂靜まれば 闇の帳につつまれて あたりは暗し小松原 朝な夕なを畏くも 打ち誦じたる大君の 敕諭のままに身を捧げ 高き尊き聖恩に 答へ奉れる隊長の 終焉の牀に露寒し 負ひし痛手の深ければ 情手厚き軍曹の 心盡しも甲斐なくて 英魂ここにとまらねど 中佐は過去を顧みて 終焉の笑をもらしけん 君身を持して嚴なれば 擧動に規矩を失はず 職を奉じて忠なれば 功績常に衆を拔き 君交はりて信なれば 人は鑑と敬ひぬ 忠肝義膽 才秀で 勤勉刻苦 學すぐれ 情は深く勇を兼ね 花も實もある武士の 君が終焉の言葉には 千載誰か泣かざらん 花潔く散り果てて 護國の鬼と盟ゐてし 君軍神とまつられぬ 忠魂義魂後の世の 人の心を勵まして 武運は永久に盡きざらん 國史傳うる幾千年 ここに征露の師を起こす 史繙きて見る每に わが日の本の國民よ 花橘の薰にも 偲べ軍神中佐をば
by sato_ignis
| 2009-02-10 05:30
| 音楽
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